パンこねパン焼き

ピッコロにはパンこね・パン焼きの日が年に数回ある。
これは2日連続のセットで行われる。

1日目にパンこねをする。
小麦粉+水+天然酵母でこねるのだが、分量や比率などは子どもたちそれぞれが自分の感覚で入れていく。トッピングは好みのものを入れたり入れなかったり。
こねたものはタッパーに入れ持ち帰って家で手を加えるもヨシ、何もしないのもヨシ、子ども次第である。

2日目はパンを焼いて食べる。
子どもたちだけでの火起こしから始まる。着火剤などは使わずに新聞紙や木を組んで、たき火にする。大人は子どもに言われたところにマッチの火をつけるだけ。火がつかないと焼けないのでみんな真剣に一生懸命考え工夫する。
火がついたら一晩寝かせたパンを長い棒にくっつけ火に近づけて焼く。直火なので焦げないようにしたり煙で目が痛くなったり熱くて火に近づけなかったり大変であるが、泣いたり手伝ってもらったりしながら個々のやり方を見出していく

年中の娘はパンこねの日に休んだ。
娘はその日の夕方ころから翌日のスケジュールや持ち物を気にし始め、明日はパン焼きであることがわかっていた。(ピッコロの子のほとんどは自分で持ち物などを把握し準備している)
自分はパンこねをしていないのに明日はパン焼きをする、果たしてどうするのかと私は興味深々で話を聞いていた。

娘は明日、こねたパンを誰かに分けてもらい、持参した棒にそれをくっつけ焼くことにすると決めた。そしてパンを焼くための長い棒を一緒に庭で探し準備した。
私はこれで明日は大丈夫だ、自分で対策を考えられるのって乗り越える力かな?などと思いながら安心したものの、娘の様子を見て「本当にこれでいいのか?」という引っかかりが心の奥底にほんの少しだけあった。でもとりあえず丸く収まりそうで一件落着と思った。

我が家では寝る前の布団の中でいろいろな話をする。そこで娘の心の声が一番聴けるような気がしている。
今日も話をしていると、何故が鼻息が荒くちょっとおかしな雰囲気になっていった。理由を聴くと明日のパン焼きのことを思い出し(想像し)、嫌な気持ちがしているので眠れないということだった。

「誰かにパンを分けてもらうのは、せっかくその子が頑張って作ったのに量が減ってしまい申し訳ないからやめる」

自分好みに合わせて作ったパンが一番おいしくできると信じており、それをママや先生に分けてあげたかった」

「5歳になって(先日誕生日を迎えたばかり)初めてつくるパンがどこまでおいしくできるか挑戦したかった」

(昨日も休んだので)友達に電話して今日のこと(パンこねであるということ)を確認し準備したのに今日も具合悪くて欠席となってパンこねができなくて悔しい」

など、嫌な気持ちの理由を大声でたくさん叫びながら30分くらい大声で泣き続けた。
自身の置かれた状況と気持ちを確認し受け止めているようだった。

私はその気持ちに寄り添うしかなかった。そして夕方に一件落着とした自分を反省した。
パン焼きの日に、娘はみんなと一緒に「焼く」行為ができればいいと思っているのではなく、また何も困らずに丸く収めることがいいわけでもなかった。
「自分でこねて自分で焼いて食べる」ことに意味があったのだ。

娘にとってこのことは単なるパン作り工程の体験やイベント的な楽しい場の話ではなかった。
そこには自分の気持ちと共に、人への思いやり、自分自身の可能性や挑戦、社会(ここではピッコロ)でつまづいたときの行動、など今後生きていくための自身の本質や在り方につながる「生き方」を見つめている姿があるように思えた。

結局明日は「家にある食パンとジャムを持っていき皆のパンが焼けたら一緒に食べたい」「火は皆が大変そうなら自分も一緒につけるよう頑張りたいが、大丈夫そうなら他の遊びをして待つ」と決めていた。
そして嫌な気持ちと悔しい気持ちを出しつつ泣きながら眠りについた。

パン焼き当日の朝、私は娘に昨日の嫌な気持ちは今どうなってるのか尋ねたところ「もうお空に飛んでいったので何もない」と。

昨日と状況は変わっていないのに何故そんなにスッキリしているのか不思議で仕方がなかったので、質問の仕方を変えながら聴き続けていたところ「昨日お母さんは私(娘)の嫌な気持ちがわかっていなかったから教えてあげたんだよ」と言われて絶句した。本当にその通りだと思った。

私は目に見える表面的な収まりを無意識に期待していたことに気づき、それを娘に見透かされていたことが恥ずかしくなった。

いい気持ちも嫌な気持ちも、自分に正直に受け止め考え過ごしているピッコロの子どもたちの姿は、私が成長過程で失ってきたものや世間体を気にして無駄に背負ってしまっているものに気付かせてくれる。
気付いたことで迷走したり悩んだりしながら歩いてきたこの約1年半、しんどいときもあるけれど、子育ての喜びと感謝は確実に増えている。

年中保護者のみこ